2011年 03月 26日
珈琲の顔は別の顔 |
「あなた、もっとしっかりしてくださらない」
洗面所から、目を真っ赤にして、哀切な表情を浮かべながら出てきた主人に私はいう
「悪いことをしたら叱るのは当然でしょ。金坊を甘やかせながら育てて、将来あなたみたいに、役立たずの穀潰しの木偶の坊にでもなったらどうするの」
と私は更に続けた。主人は目を細目ながら息子の金坊の方を見ていた。私の声なんてきっと耳に届いていない、そんな顔だった。
私が金坊を叱ると、主人は金坊のことを不憫に思うのか、いつも涙を溜め洗面所に駆け込み、顔を洗っていた。泣いているのだ。
主人は金坊に大甘。深煎りのブラジルの香りみたいに甘いのだ。甘いだけではダメなのだ。苦味や酸味、時にはわざと雑味を入れて奥行きを出す。それが子育てというものではないのだろうか。それこそが、本当のブレンドコーヒーといえるのではなかろうか。
だけど主人は、ただ甘いだけだった。
金坊に顔を踏みつけられれば、『おお、いいぞ将来は最強の格闘家だな、今から金ちゃんのことをヒョードルと呼ぶことにするよ』などと鼻血を流しながら頭を撫ぜ、おもちゃの刀で太ももを思いっきり叩かれれば、『カッコいいな!白馬童子かと思ったぜ、驚いた』とみみず腫れした足を引きずりながら両手を広げた。
が、しかし、主人の金坊に向ける眼差しは、常に温顔に満ち溢れた仏のそれでは無かった。
あれは節分のときのことだった。金坊はいつものように図に乗って、あの人がいつも大事そうにちびちびと飲んでいたイブラヒム・モカの深煎りの豆を『鬼は外!』などといいながら、嬉しそうに庭にばら撒いた。それに気が付いた主人は、近所まで響き渡るような金きり声を上げ、金坊のところへマッハで駆け寄ると、顔は紅潮させ目を吊り上げながら、金坊の胸倉を掴んで、頬を思いっきり引っ叩いたのだった。
終り
洗面所から、目を真っ赤にして、哀切な表情を浮かべながら出てきた主人に私はいう
「悪いことをしたら叱るのは当然でしょ。金坊を甘やかせながら育てて、将来あなたみたいに、役立たずの穀潰しの木偶の坊にでもなったらどうするの」
と私は更に続けた。主人は目を細目ながら息子の金坊の方を見ていた。私の声なんてきっと耳に届いていない、そんな顔だった。
私が金坊を叱ると、主人は金坊のことを不憫に思うのか、いつも涙を溜め洗面所に駆け込み、顔を洗っていた。泣いているのだ。
主人は金坊に大甘。深煎りのブラジルの香りみたいに甘いのだ。甘いだけではダメなのだ。苦味や酸味、時にはわざと雑味を入れて奥行きを出す。それが子育てというものではないのだろうか。それこそが、本当のブレンドコーヒーといえるのではなかろうか。
だけど主人は、ただ甘いだけだった。
金坊に顔を踏みつけられれば、『おお、いいぞ将来は最強の格闘家だな、今から金ちゃんのことをヒョードルと呼ぶことにするよ』などと鼻血を流しながら頭を撫ぜ、おもちゃの刀で太ももを思いっきり叩かれれば、『カッコいいな!白馬童子かと思ったぜ、驚いた』とみみず腫れした足を引きずりながら両手を広げた。
が、しかし、主人の金坊に向ける眼差しは、常に温顔に満ち溢れた仏のそれでは無かった。
あれは節分のときのことだった。金坊はいつものように図に乗って、あの人がいつも大事そうにちびちびと飲んでいたイブラヒム・モカの深煎りの豆を『鬼は外!』などといいながら、嬉しそうに庭にばら撒いた。それに気が付いた主人は、近所まで響き渡るような金きり声を上げ、金坊のところへマッハで駆け寄ると、顔は紅潮させ目を吊り上げながら、金坊の胸倉を掴んで、頬を思いっきり引っ叩いたのだった。
終り
by niagara-cafe
| 2011-03-26 08:07
| ■与太話■
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